私は夢を見ている。

ただ夢の覚め方が分からない。

手の感覚や足が地面に着く重み、全てが現実的である。

 

空は不気味なほど赤く、地面は空に照らされているように赤い。

そして一面果てしなく続く何も無い野原はここが夢だということを実感させるのだ。

私はどうしてこんな夢を見ているのだろう。

体の感覚があるにも関わらず、意識は曖昧で、寝る前の出来事やそれまでの事が思い出せない。

 

――とりあえず、歩こう。

 

私は夢の中で何もない場所をただ、歩き始めた。

夢の中だ。歩く意味は無い。夢が覚めるまできっとこの何も無い野原は続くだろう。

 

――この夢はいつ覚めるのかな……。

 

私はそう思いながらも意味もなく歩き続ける。

歩く事で何かが変わる事は無く、終わりもない。

どこまで歩いても同じ赤い野原だ。

 

――歩く、歩く、歩く。

 

何も変わらず退屈な夢。

こんな不気味な景色にも関わらず嫌悪感は無い。

むしろ湯船に漬かる様な心地よささえある。

 

――歩く、歩く……。

 

ふと、私は何を思ったのか、この野原を飛んでみたいと思った。

ここは夢なのだから、非現実的な事も出来るだろう。そう実感したのだ。

ただ、あまりにも実感のある夢に飛ぶイメージが上手く浮かばない。

羽がある訳でもない。超能力で空が飛べる訳でもない。

まるで雲を実際に掴もうとしているような感覚。

 

――飛んでみたい。どうして、私は、どうして。

 

今までに無いほど飛んでみたいという感覚が脳を支配する。

過去にここまで空を飛びたいと思ってもいなかったのに。

 

――そうか、そうだったんだ。

 

そして、私は気が付けば鳥のように空を飛んでいた。

羽はない、手を大げさに動かすのではなく、自然に飛んでいる。

腕を広げ、この空間と一体になるように、空を飛ぶ。

 

――気持ちがよい。こんな夢は初めてだ。

 

異質な空間に心地よい風が全身を包む。

私は鳥だ。この空を自由に飛ぶ鳥だ。

 

――――!

 

ふと遠くに私とは別の空を飛ぶ生物を発見する。

しかし、それは一瞬で心地よさが絶望へと変わる。

 

――アレは近付いてはいけない。

 

直感だった。

しかし、寒気と恐怖が全身を襲い、近付いてはいけないと体が叫ぶ。

私はすぐさま反対側を向き、飛翔する鳥から逃げる。

 

――ア、アァ、ア。

 

怖い。怖い。嫌だ。嫌だ。

あれは駄目だと心が叫ぶ。脳が拒絶する。

あの赤い鳥に見付かってはいけない。

 

―――――。

 

――――――――――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

――鳥が、私を食べた。